カルチャー山の会では、会員と読者会員を対象に広報誌「あおぞら」を毎月発行しています。
その中で連載中の「会長の寄稿文」は毎回楽しみしているコラムです。
60年近く山登りをしてきたヒトならではの、山登りの楽しみ方や、経験にもとづく豊富な山の知識が綴られていて、参考になることばかりです。
こちらでは、その寄稿文から一部抜粋したものを不定期に更新する予定です。
どうぞお楽しみに!
(文中の挿絵も塩田会長・・転載禁止)
―佐賀県の自然歩道― 大いに楽しんで歩こう (あおぞら7号より)
長崎県の九州自然歩道歩きを約14年やってきましたが、やっと次の段階の佐賀県の九州自然歩道に進むことになりまして、今4回目が終わったところです。
佐賀県の自然歩道の長さは全長で186kmです。長崎県は212kmなので、比べると長崎の方が26km長くなっています。長崎県は212kmの距離を15回で歩くので、1回あたりの平均が14kmになります。一方佐賀県は186kmを10回で歩くので1回あたり19kmと結構長い距離になり厳しいものと考えます。

さて、私は長崎県の九州自然歩道のガイドブックを書いた手前、長崎県のコースは調査を含め10回は歩いているので熟知しています。
それに比べて佐賀県の方は下調べを1回もしていません。事前に地図と40年前に発行された九州自然歩道ガイドを読んだだけで山行に臨むので、無理な所が多々出てくることが予想されます。
一回目は3/8(日)有田から黒髪山を経て乳待坊まで、距離10.5km・登りの高さ800mです。有田の唐船山からスタートしました。この山は松浦藩の居城があったところです。旧跡です。それから里山を歩きました。いい所です。竜門ダムの手前でP290mを登ります。この山のコースがはっきりしてなくて、踏み跡を探しながら歩きました。勿論、地図を読みながらの行動ですが、安全に誘導しなければなりません。後で竜門小屋の親父さんに聞いたところ「あそこは殆ど行かないので整備していない」とのことでした。その後の黒髪山は何回も登っているので、ここは問題なし。予定では見返峠までのところを山頂まで足を延ばしました。最後は夕日を浴びた岩峰、雄岳、雌岳を見て乳待坊展望台で終了しました。
二回目は4/12(日)黒髪少年自然の家から黒岳に登り桃川まで、距離13km・登りの高さ420mです。一回目のP290mに苦労しましたので、事前に「あゆみHC」のコース経験者Aさんに、「黒岳ってどんな山ですか?」と尋ねたところ、「この山もコースがハッキリしなくてオイ達ゃ通しきらんかった」との返事にビックリ。こりゃイカン! 降り道ぐらいは事前調査の必要アリと実施前日に下山ルートを偵察しました。
当日、少年自然の家の所長さんに見送ってもらい気分よくスタートしました。黒岳へのルートは人があまり入らないし、道もはっきりしないものでしたが、何とか通しました。私達にとってはなかなかの地図の勉強にもなりました。又、この地方が広く陶器の里として栄えていたことも知りました。
三回目は5/10(日)に行いました。距離12km・登りの高さ900m。コースは桃川から眉山を経て八幡岳です。どちらも展望はありませんが、夏はキャンプ場などあって、青少年に自然を親しんでもらおうとする努力が見られました。ですが、トイレはいずれも鍵がかかっていて使えないのは女性陣にはきつかったです。
八幡岳は登りが実質900mなので、全員これはキツかった。だが疲れ切って登っていてもここはオオキツネノカミソリが自生している場所。それをきちんと確かめたのはさすがです!皆が力を合わせて山頂に立ちました。この努力は嬉しいものでした。皆さんありがとう。
四回目は6/14(日)、岸川から天山の登りです。天候も雨の予報が曇りに変わり、陽が差す程に回復しました。ラッキーです。距離は10km・登りの高さ860mの登りです。今まで会から天山には4~5回は登っていますが、殆ど頂上直下の9合目までバスで行くので大した苦労はありません。5年前に北側のスキー場から登りましたが、高さはせいぜい350mです。今回はその2倍半は登らねばなりません。私はリーダーとして全員を絶対バテさせないようにペースと休息を考え、途中で野の花がたくさん咲いていましたので、それも見てもらい気分転換にしました。

林道から山道に入ると勾配が急になり足元も悪くなり気を使います。右側は沢で滝も多く、沢登りに良さそうです。山頂までは食事を我慢して12時30分に天山山頂に着きました。展望が良い天山はさすがに名山です。ゆっくり食事しましたが、なんと!私は車に弁当を置き忘れ、皆さんから少しずつ昼食を恵んで貰って助かりました。
さて下りは草原の中を七曲峠まで歩きます。ネジキの花、ヤマボウシ、バイカイカリソウ、ヤマツツジなど花いっぱいで迎えてくれました。本当に楽しい天山の自然歩道でした。
次回からは少しは下見をして、説明ができるようにしたいと思います。そして名所・旧跡を見ながらの自然歩道歩きを楽しみたいと思います。期日は10月11日(日)を予定しています。おいでください。佐賀の自然と山を大いに楽しみたいものです。
九州自然歩道を自分たちの手で整備しよう (あおぞら5月号より)
「あざやかな緑よ、明るい緑よ、鳥居を囲み、わら屋を隠し、薫る薫る 若葉が薫る」と春をうたった文部省唱歌がありました。
今、近郊の山々も、その新緑の萌え立つ美しさを感じています。
照葉樹のシイ、カシ、クス、タブ等の新緑は、ほとばしる勢いで森を活性化していて、その躍動感は私達に生きる力を与えてくれています。春の山は本当に気持ちがいい。眺めているだけで元気になります。
さて、西彼半島の森林帯の緑の中を歩く九州自然歩道№12は、4/13日(日)に実施するはずが、終日降った雨の為に一週間延期して仕切り直しとなりました。
4/20(日)は晴天と思いきや、やはり雨天。降水率50%でしかも小雨と云うので、思い切って実施しようと、参加者に再度確認の電話をしました。
マイクロバスに23名を乗せて、大瀬戸の山内へ走らせました。
雨具に身をかためた人たちが、スタート時点で柔軟体操をして霧雨の中を歩き始めました。
川沿いに野の花が咲いて土道の林道は緑がいっぱいです。西彼半島の一番自然が濃い所です。柚木川源流の小さな峡谷と滝が左手に見えています。
やがて、林道を離れて山道に入ります。イズセンリョウ、シュンラン、エビネが咲いていました。やがて「牧場」という地名のゆるやかな頂上部に出ました。ここはかつて、戦後の復員した兵隊さんが原野を切り開いて開拓した所です。ここで牧場を営んできたので地図上に牧場の名が残ったのでしょうか。
私達はここで休憩して、ここからゆっくり下りのルートを楽しんで歩くつもりでした。
しかし、九州自然歩道はここでルートが消えかかっていたのです。歩道には周辺からの雑木が枝を伸ばして、草も高く繁り、どこがルートなのか解らなくなっていました。
自然歩道の立派な標識は立っているのに大変な荒れ様です。これはマズイ!
せっかくのルートを整備してくれる人がいなくなったのでしょうか。ここ1~2年誰も通ることはなかったのでしょうか。
私は好きでこのルートを何回も歩いているので迷うことはない筈ですが、これじゃ今後、歩く人はいなくなるでしょう。私はノコを出して、せめて今日の人が通れるように枝切りをしました。

だが、事態はますますひどくなってきました。山道はシダがビッシリと覆ってしまい、一見どこが道か判断がつかないのです。強引に体を入れ脚を入れ、押し分けて進みました。シダの高さは腰の高さから胸の高さ、遂には肩の高さまであり、それを両腕で押しやり、とげとげのサルトリイバラや、とげの木イチゴが邪魔をするのです。
私は指や手がトゲで傷つき、行く手を阻まれ悪戦苦闘です。後ろのNさんが見兼ねて先頭を交代してくれました。
車道に出るまで2キロメートル程あったでしょうか。とても長く感じました。
これじゃ西彼半島の自然歩道は敬遠され自然の豊かさも体験できなくなるでしょう。
私はHさんに写真を撮ってもらい、この状況を県の自然保護課に知って貰おうと考えました。しかし、闘いは終わっていなかったのです。
昼食は西彼半島縦断の橋の下で、雨をよけて食べました。やがて午後のスタートです。
私達は伊佐ノ浦川の渡渉地点へ下がって行きました。ここの川幅は洪水の為か広くなり、渡る石づたいは、間隔が空いて簡単にいきません。木を切って川に渡し、これを手摺りにしたかったのですが、あまりにも滑りやすくて私も途中で引き返しました。
これは危ない。とても全員を安全に渡すことは出来ないと渡渉をあきらめて、上の端まで森林帯を高巻きしました。
その距離はおよそ300メートルです。Nさんが20メートルぐらい登った所に林道らしき道を見つけて、皆さんを誘導できました。
ここで考えたのは、この渡渉ルートは危険で使えない。ルート変更を県の方に伝えて安全なルートを自然歩道として変更してもらう事です。
私達は長崎県自然歩道が好きです。この豊かなルートを皆の手で、又、県の手で整備して、安全なものとして味わってもらいたいのです。どのルートも、登山ルートも同じです。常に誰かがたずさわり、整備、管理してもらって使えるルートになるのです。県が一応管理していますが、県にも実態を知らせて、私達で出来る所は手も入れましょう。そうでない所は県の方でやって貰いましょう。
特に伊佐ノ浦の渡渉地点は危険な所なので迂回し、ルートを変更して安全に使用してもらいたいと思います。その上で、楽しく自然歩道を利用したいものです。
ご協力よろしくお願いします。
地図・コンパス登山をしよう 安全登山の基本です (あおぞら2月号より)

2月という月は最も花の無いシーズンです。寒々した自然の中での登山となります。だけど、この時期は、地図・コンパスに最適のシーズンでもあるのです。
雑木林の山々は、藪は雪で落ち、蜘蛛の巣はなく、蛇も変な虫もいないのです。どこを歩いてもいい、明るい林となるのです。

カルチャー山の会は、地図とコンパスを使って登山をする山の会として出発しました。それは、安全登山の基本に地図とコンパスが欠かせないからです。
初めてのルートを地図・コンパスで登って、「ヤッター」との達成感や「面白い」「楽しい」と思ってくれる人が結構増えていましたが、今経験者が退会して、後の人を育てる必要があるようです。
常に人に連れられて山に登っている人は、地図を殆ど見る機会がない中で山頂に着いてしまう状況にあります。つまり、考えることもなく着くのでこれが楽ちんと思ってしまいます。だけど考える経験を与えることも大事なことです。
会では車の関係もありましょうが、往復登山がけっこうあります。下りは違うコースを取れば2つの経験が出来ます。
トップをやらせれば、知らないコースは常に分岐点での判断が迫ってきます。つまり、右に行くか、左に行くかになります。ここで、後ろの人が道を教えてしまえば、トップの自主判断が出来ません。これは、親切心の様に思えますが、違うのです。判断の機会を与えることが地図・コンパスに強くなる秘訣なのです。
地図上で私は今、どこにいるのか、これがとても大事です。それが解れば、進む方向が出てきますし、地図が楽しくなります。 口で云えば簡単の様ですが、なかなか時間がないと出来ません。
先日、県連主催の地図・コンパス山行がありました。場所は近郊の茂木~こしき岩周辺の山城でやりました。私と組んだのは、あゆみHCのMさんと云う比較的若い女性でした。昨年も参加したというMさんは地図をある程度読める人でした。
スタートはフェリー乗り場近くの茂木支所です。登山口までは里山道路を地図を見ながら、「今ここですネ」と言いながら、Mさんを先頭に歩いてもらいました。
登山口に来ていよいよヤブ山入りです。ここは私が先頭で入りました。密生したヤブです。トゲトゲのヤブは陽当りのよい良い所がなり易く、だからヤブコギは日陰から入るのがいいのです。
それと小さな踏み跡が出てきました。Mさんに観察させて、「これが獣道です。」周りから見れば小動物でしょうか足跡が細く、立木からして判断しました。
次は少し踏み跡が大きくなりました。「これは人が歩いた跡ですね」と観察。「どの方向に行くかは私達の行く方向との関連で利用すべきです。」・・と。
あとはすぐ交代して先頭を歩いてもらいました。さて、“この辺はどこか?”です。現在地の高さを高度計で出して、この踏み跡の道の方向と、私達が行く方向を出したら、バッチリ合っていました。
予定通り、見晴らしのないP288に立ちました。とそこで、Nさんパーティから携帯に電話があり「ダンギクの岩に到達したが誰もいない。後はどうなっていますか?」の問いあり。「私達パーティもあと10分でそこを通るようになっています。」と報告。12:30に合流し昼食を一緒にしました。
そこから、40分位でコシキ岩に到着。次々とパーティが集まって5コースのメンバー10人が合流、有意義な報告、反省会となりました。中には荒れた竹林を40分間奮闘したパーティ、尾根一つ間違って引き返した人もいました。
下りは合同でまだ歩いてないルートから下山しましたが、道が崩れて消えたりしてなかなか面白いルートでした。
次回は県連がせめて3ヶ月前に提案してほしいと(意見が)出ました。それは、各会が山行を決めてしまってから県連の企画が出てきたからです。早かったらもっと参加者が増えたと思います。カルチャー山の会もこんな地図の空白部でやれないかなと思ったりしました。
ビッグ山行で日本アルプスを登る機会がありますが、ここでは霧や風雨で道がわからなくなって遭難してはいけないので、標識もたくさんあり、ルートの岩にはペンキで○印があって、天気が良かったら全然地図コンパスを使わなくても山頂に着いてしまうのです。
だけどこれを登山者が誤解して、日本アルプスなんてチョロイと思わないで欲しい。これは、厳しい気象の変化を考えてのことなのです。
むしろ近郊の山やヤブ山のほうがむずかしいし、地図・コンパスを使うので、本当に訓練にいいのです。
なぜ私達は、地図・コンパス訓練をやるのか?
それは―山登りが「安全」に出来るし、「達成感」があるからです。